大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1211号 判決 1979年11月22日

控訴人

久松喜代

被控訴人

奥村久子

被控訴人

矢萩保

右両名訴訟代理人

八木下巽

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  求める判決

(一)  控訴人

1  原判決中、被控訴人両名関係部分を取消す。

2  被控訴人奥村は控訴人に対し原判決添付物件目録一記載建物(本件一建物)および同目録四記載建物(本件四建物)を収去して別紙物件目録記載土地部分(本件一、四建物敷地部分)を明渡し、昭和四五年一一月一日以降昭和四六年一二月三一日まで本件一、四建物敷地部分につき3.3平方米当り一か月三〇円の割合による金員、昭和四七年一月一日以降本件一、四建物敷地部分明渡済まで同土地部分につき3.3平方米当り一か月六〇円の割合による金員並びに本件一、四建物敷地部分につき3.3平方米当り五〇〇円の割合による金員をそれぞれ支払え(当審において被控訴人奥村に対する請求の趣旨を右のとおり減縮)。

3  被控訴人矢萩は控訴人に対し本件一建物から退去して本件一建物敷地部分を明渡せ。

4  訴訟費用は第一審において生じたものの二分の一および第二審において生じたもの全部を被控訴人奥村の負担とする。

5  仮執行宣言

(二)  被控訴人両名

主文一項と同旨。

二  主張

(一)  控訴人

「請求原因」

1  控訴人の父久松仙太郎は昭和一三年一二月一九日、本件一、四建物敷地部分を含む茨城県土浦市城北町六一〇番三、宅地793.38平方米のうち628.09平方米(本件土地と総称)を被控訴人奥村に建物所有を目的とする約で賃貸し、引渡し、その後、右賃貸人の地位は訴外久松広を経て控訴人がこれを承継した。

2  本件土地賃貸借契約は次のいずれかにより終了した。

(1) 被控訴人奥村は本件土地上に本件一、四建物のほか原判決添付物件目録二記載建物(本件二建物)および同目録三記載建物(本件三建物)を所有していたが、本件一建物については昭和三五年から昭和四二年にかけて、本件二建物については昭和三七年から昭和四五年にかけて、本件三建物については昭和三六年から昭和四五年にかけて、本件四建物については昭和三八年、四五年、四九年にそれぞれ控訴人の抗議を無視して通常の修繕の程度を超えた大修繕をなしたが、右大修繕がなかつたとすれば本件一建物は昭和四二年頃、本件二建物は昭和四五年頃、本件三建物は昭和四五年頃、本件四建物は昭和四九年頃、いずれも朽廃したと考えられる。従つて本件土地賃貸借契約は本件一ないし四建物全部が朽廃したと考えられる昭和四九年頃に終了した。

(2) 昭和三九年、被控訴人奥村は本件土地の一部を訴外磯原栄三郎に転貸し、同人をして土地の一部を使用させた。

(3) 控訴人は被控訴人奥村に対し昭和四五年一〇月七日着書面で、前記(1)の大修繕(但し昭和四九年度分を除く)および(2)の転貸は賃貸借当事者間の信頼関係を著るしく破壊するものであるとして、本件土地賃貸借契約解除の意思表示をなした。

(4) 控訴人は被控訴人奥村に対し昭和四六年一二月三一日着書面で、昭和四五年一一月一日以降昭和四六年一二月三一日までの本件土地につき3.3平方米当り一か月三〇円の割合による賃料を書面到達後一週間以内に支払うべく、右支払がないときは本件土地賃貸借契約を解除する旨の催告ならびに停止条件付契約解除の意思表示をなしたが、所定期間内に支払がなかつたので、本件土地賃貸借契約は昭和四七年一月八日、解除の効果が生じた。

(5) 控訴人は被控訴人奥村に対し昭和四九年六月一九日着書面で、前記(1)のように昭和四九年、控訴人の抗議を無視して本件四建物に大修繕を加えたことは賃貸借当事者間の信頼関係を著るしく破壊するものとして、本件賃貸借契約解除の意思表示をなした。

(6) 昭和一三年一二月一九日締結の本件土地賃貸借契約の存続期間は二〇年の約定であつたが、昭和三三年一二月二〇日、右契約は法定更新され、昭和五三年一二月一九日の経過により期間満了するところ、控訴人は被控訴人奥村に対し、昭和五三年六月一六日着書面および昭和五四年一月二三日着書面で、借地法七条の準用に基づき更新を拒絶する意思表示をなした。

3  本件一、四建物敷地部分の3.3平方米当りの賃料相当額は昭和四五年一一月一日以降昭和四六年一二月三一日までは一か月三〇円、昭和四七年一月一日以降は一か月六〇円である。

4  本件一、四建物敷地部分については土浦都市計画下水道事業受益者負担に関する条例第八条に基づき3.3平方米当り五〇〇円の負担金が課せられており、被控訴人奥村は同被控訴人に代りこれを立替支払つた控訴人に対し、右金員の支払義務がある。

5  よつて控訴人は被控訴人奥村に対し賃貸借契約終了に基づき本件一、四建物収去、同敷地部分の明渡、昭和四五年一一月一日以降昭和四六年一二月三一日まで本件一、四建物敷地部分につき3.3平方米当り一か月三〇円、昭和四七年一月一日以降同敷地部分明渡済まで同敷地部分につき3.3平方米当り一か月六〇円の各割合による賃料相当損害金並びに同敷地部分につき3.3平方米当り五〇〇円の割合による前記立替負担金の支払を求める。

6  本件一建物敷地部分は控訴人所有であるが、被控訴人矢萩は本件一建物に居住して同敷地部分を占有している。

7  よつて控訴人は被控訴人矢萩に対し所有権に基づき本件一建物から退去して同敷地部分を明渡すことを求める。

(二)  被控訴人奥村

「請求原因の認否」

その1は賃借の時期を除きその余は認める。その2の(1)のうち建物所有および修繕の事実は認めるがその余は否認する。被控訴人奥村がなした修繕は通常程度のものである。その2の(2)は否認する。その2の(3)のうち控訴人主張の時期に主張の理由による解除の意思表示があつたことは認める。その2の(4)のうち控訴人主張の時期に催告ならびに解除の意思表示があつたことは認めるがその余は否認する。控訴人が支払の催告をなしたのは損害金であり、賃料ではない。その2の(5)のうち控訴人主張の時期に主張の理由による解除の意思表示があつたことは認める。その2の(6)は否認する。被控訴人奥村が本件土地を賃借したのは昭和一七年九月一日であつて、存続期間の定めはなかつたので、三〇年経過した昭和四七年九月一日期間満了のところ、同被控訴人において土地の使用を継続しているのであるから、借地法六条により賃貸借は更新されている。その3、4は否認する。

「抗弁」

控訴人は昭和三八年八月、被控訴人奥村に対し本件土地の従前賃料月額二〇〇〇円を四三〇〇円に増額請求をしたので、同年一二月、被控訴人奥村は昭和三八年八月以降同年一二月分までの月額四三〇〇円の割合による賃料合計二万一五〇〇円を控訴人方に持参して提供したが、その受領を拒絶され、その際、供託するのであれば従前賃料額でよい、といわれたので、その頃、金一万円(月二〇〇〇円の五か月分)を水戸地方裁判所土浦支局に供託し、その後も月額四三〇〇円、月額七二〇〇円と順次値上げした額の供託を続け、現在に至つている。なお昭和四六年一二月三一日着控訴人の催告は、昭和四五年一〇月七日着書面による本件土地賃貸借契約解除の意思表示後の賃料相当損害金に関するものであり、かりに右催告が賃料に関するものであつたとしても、従前の経過に照らすとかりに被控訴人が賃料を提供しても控訴人がその受領を拒絶することは明らかであつたから、被控訴人奥村には弁済提供の義務はなかつた。

(三)  控訴人

「右抗弁の認否」

否認する。

(四)  控訴人矢萩

「請求原因の認否」

その6は認める。

「抗弁」

1  被控訴人矢萩は昭和四九年五月被控訴人奥村から本件一建物を賃借し、これに居住している者である。

2  よつて被控訴人奥村の本件土地賃借権を援用する。

(五)  控訴人

「右抗弁の認否」

その1は認める。

「再抗弁」

被控訴人奥村の本件土地賃借権は前記(請求原因2)いずれかの事由により消滅した。

(六)  被控訴人矢萩

「右再抗弁の認否」

被控訴人奥村の請求原因2の認否を援用する。

「再々抗弁」

被控訴人奥村の抗弁を援用する。

(七)  控訴人

「右再々抗弁の認否」

否認する。

三  証拠<省略>

理由

一被控訴人奥村に対する請求の当否

(一)  請求原因1は賃貸借成立の時期の点を除き当事者間に争いがない。

本件土地賃貸借成立の時期につき控訴人は昭和一三年一二月一九日と主張し、<証拠>によると、本件一ないし三建物については昭和一三年一二月一九日、被控訴人奥村名義で所有権保存登記がなされたことが認められる上、原審における被控訴人本人尋問の結果中には右主張に副う部分があるが、右は後記証拠に照らし採用し難く、むしろ<証拠>によると本件一ないし四建物は昭和一〇年以前から被控訴人奥村の所有であり、同被控訴人は当時の本件土地所有者訴外久松仙太郎から無償でその敷地たる本件土地の使用を許されていたところ、昭和一七年九月一日以降、仙太郎の婿養子(控訴人の夫)訴外久松広に対し本件土地の賃料を支払うことが合意され、ここに久松広と被控訴人奥村間に本件土地賃貸借が成立し、その後土地所有権が控訴人に移転したに伴い、控訴人被控訴人間の賃貸借に移行したとみるのが妥当と思われる。

(二)  以下、控訴人主張の本件土地賃貸借契約各終了事由の存否について検討する。

1  請求原因2の(1)のうち、被控訴人が本件建物を所有し、控訴人主張のような修繕をした事実は当事者間に争いなく、<証拠>によると、

(1) 本件一建物は昭和六年頃、本件二ないし四建物は大正末頃または昭和初期に建築された、いずれも木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建の建物であり、もと控訴人と被控訴人奥村との父である訴外久松仙太郎の所有であつたが、昭和一〇年以前に被控訴人奥村が仙太郎より贈与を受け、本件一ないし三建物については、前記のように、昭和一三年一二月一九日付で同被控訴人名義で所有権保存登記がなされ、本件四建物については、昭和二二年四月五日、一旦仙太郎から訴外久松広へ相続による所有権移転登記がなされた後、即日被控訴人への所有権移転登記がなされたこと。

(2) 本件一ないし四建物の敷地である本件土地も仙太郎所有であつたが、昭和一三年、同人が脳溢血で倒れて以後家庭内にいざこざが生じたため、その財産の管理関係、家計分担を明らかにするため訴外久松広、被控訴人奥村、仙太郎の妻、訴外久松みちの三名が話合つた結果、昭和一七年八月二九日、被控訴人奥村は本件土地の賃料(月額二〇円)を仙太郎の法定推定家督相続人である久松広に支払うことなどを内容とする約定が成立し、その旨記載の誓約書(乙第六号証)が作成され、同約定は同年九月一日よりその効力を生じたこと、

(3) 被控訴人奥村は昭和一〇年、訴外弥之助と結婚後、本件三建物に居住していたが、その後、本件一建物に移り、現在は本件四建物に住み、自己居住以外の建物は他に賃貸し、賃料収入をえていること、

(4) 訴外弥之助は建物保存のため、自ら本件一ないし四建物の屋根を塗りかえ、土台柱に防腐剤を塗つたりしたことがあるほか、本件一建物の風呂桶の取りかえ、本件三建物の玄関部分を二帖の部屋に改造する工事および二世帯に賃貸するための間仕切工事をなしたこと、

(5) 右のほか被控訴人奥村は本件一建物については、昭和三一年頃、控訴人の紹介で知つた山田某という大工を使つて北側土台を取りかえ、風呂場、台所を改造し、二帖の部屋を4.5帖に改造し、昭和四二年には洗面所、便所を改築し、昭和四三年には腐つた東側濡れ縁を補修し、本件二建物については、昭和三九年、台所、玄関下の土台を取りかえ、昭和四〇年頃には台風により雨漏りが生じたため屋根を葺きかえ、本件三建物については昭和三八年頃林大工に注文して北側の土台を取りかえ、廊下、台所、便所の改築をなし、本件四建物については昭和四二年頃、北側の土台を取りかえ、昭和四五年頃、娘と同居することになつたため七帖居間、台所、廊下の一部を改造し、昭和四九年、小野工務店に注文して廊下を広くし、壁の塗りかえ、外部下見板の張りかえなどの内外装工事をなしたこと、

(6) 現在、本件一、三、四建物は殆んど傾斜もなく、敷居、鴨居などのゆがみはなく、建具の開閉も良好であるが、本件二建物には若干の傾斜がみられ、建具の開閉も不良であること、

(7) 控訴人は姉、被控訴人奥村は妹で、昭和三一年頃まで両者の仲は特に悪くはなく、前記のように昭和三一年、被控訴人奥村が本件一建物を修繕するに際しては控訴人が大工を紹介した位であつたが、その後、姉妹仲は悪くなり、昭和三九年、昭和四二年、昭和四五年、昭和四九年、控訴人は被控訴人奥村に対し、前記本件一ないし四の建物の修繕に関し抗議の意思を表明したこと、

(8) 本件土地の所有者であつた訴外仙太郎は昭和二二年一月二七日死亡し、前記訴外久松広が家督相続により、土地所有権を承継したが、控訴人は昭和三八年頃、訴外久松広と離婚し(広はその後死亡)、現在、本件土地は控訴人所有になつていること、

(9) 本件土地の賃貸借については正規の賃貸借契約書の類は存在せず、地上建物についての増改築禁止特約がなされた形跡も存しないこと、

(10) 昭和三八年八月、控訴人より被控訴人奥村に対し本件土地の月額賃料二〇〇〇円を月額四三〇〇円に増額する旨の意思表示があり、被控訴人奥村は増額を受け入れて同年一二月二二日、同年八月以降同年一二月までの月額四三〇〇円の割合による賃料合計二万一五〇〇円を控訴人宅に持参、提供したが、受領を拒絶され、その際、供託する場合は従来賃料額でよいといわれたので、その後、月額二〇〇〇円の割合による賃料(但しその額は四三〇〇円、七二〇〇円とその後適宜増額)をほぼ三か月おきに供託するようになり、現在に至つていること、

(11) 控訴人は本件土地以外に自己居住建物、その敷地(約一五〇坪)、貸家二軒、貸地(約五〇〇坪)を所有しているが、被控訴人奥村は本件一ないし四建物を所有するほかはみるべき資産はなく、夫弥之助の年金収入(約八万円)と本件一ないし三建物の賃料収入(計九万三〇〇〇円)で生活している。

が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで存続期間の定めのない建物所有を目的とする借地権は、法定の存続期間満了前でも、地上建物が朽廃すれば消滅するが(借地法二条一項但書)、借地人が通常の修繕の程度を超える大修繕をなしたため地上建物の朽廃が避けられた場合でも、建物の建築時期、自然の命数、修繕時における建物の老朽化の程度修繕の具体的理由、その程度、修繕に対する賃貸人側の反応などの諸事情に照らし、右大修繕がなければ建物はすでに朽廃したであろうことが確実に推測され、かついろいろな事情に照らし、大修繕がなければ朽廃したであろうと思われる時期に建物は朽廃したと擬制して借地権の法定存続期間満了前に借地権消滅の効果を認めることが妥当な場合には、右大修繕がなければ朽廃したであろうと思われる時期に借地権は消滅したとみなすことができるものと解すべきである。

このことを前提として控訴人の主張の当否を考えると、前記認定の本件一ないし四建物の建築時期、修繕内容、修繕後の現状などによれば、本件一、三、四建物に加えられた修繕は建物保存のためになされる通常の修繕の程度を超えるもの(いわゆる大修繕)ということができるものの、本件二建物については大修繕が加えられたとみるのは困難であること(従つて本件二建物は大修繕を加えられることなしに現在まで命数を長らえていることになり、このことからして、木造建物は一〇年位毎に補修補強を加えてもその寿命は二五年位である、との原審における鑑定人中込昇司の鑑定結果部分は採用できない。)、本件土地賃貸借におけるように地上建物が数個あり、しかもその間に主従の差が認められない場合には、全建物が朽廃しなければ、借地法二条一項但書による借地権消滅の効果は生じないと解されること、控訴人と被控訴人奥村は姉妹であり、昭和三一年の修繕当時は控訴人は大工を紹介したりしてむしろ協力的であつたが、その後姉妹仲が悪くなつてから被控訴人奥村の修繕に対し控訴人より繰りかえし抗議がなされるようになつたこと(このことからすると控訴人の抗議は必ずしも建物の修繕だけに起因するものではなく、被控訴人奥村との他の不和原因が遠因をなしているようにも思われる。)からすると、本件土地賃貸借が控訴人主張の朽廃すべかりし時期に前記借地権消滅の法理により終了したとみることは妥当ではなく、控訴人のこの点に関する主張は失当であり、採用することができない。

2  <証拠>によると、昭和三九年、控訴人は訴外磯原栄三郎を相手方とし水戸地方裁判所土浦支部に対し、本件土地上の一坪五合の未完成風呂場兼物置について工事続行禁止などの仮処分申請をなし、同仮処分命令が発せられたことが認められるが、右事実だけで請求原因2の(2)を推認することはできず、ほかに右請求原因を認めるに足りる証拠はない。

3 請求原因2の(3)のうち控訴人からその主張時期に、主張理由による契約解除の意思表示がなされたことは当事者間に争いないが、前記(本理由一、(二)、1)認定の全事情(但し昭和四九年の修繕に関する事実を除く。)および右記のように本件土地一部転貸の事実(請求原因2の(2))が認められないことを総合考慮すると、解除の意思表示がなされた昭和四五年一〇月当時、控訴人主張の理由で賃貸借当事者間の信頼関係が著るしく破壊されたとみることはできず、従つてこの点に関する控訴人の主張は失当であり、採用することができない。

4  請求原因2の(4)のうち控訴人からその主張時期に催告ならびに解除の意思表示がなされたことは当事者間に争いがないが、控訴人主張のような「賃料」の支払催告がなされたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて<証拠>によると、控訴人のした右支払催告の内容は昭和四五年一〇月三日付、同月七日着書面による意思表示によつて賃貸借契約解除の効果が発生したことを前提として「賃料」ではなく、右解除後の「賃料相当損害金」の支払を求めたものであること(このことからもし右催告に対し被控訴人奥村が「賃料相当損害金」としてではなく、「賃料」として催告金員を提供しても控訴人は受領しなかつたであろうことが推測される。)が認められるから、右催告に応じて被控訴人奥村が弁済またはその提供をなしたか否かを検討するまでもなく、控訴人の請求原因2の(4)の主張は失当であり、採用することができない。

5 被控訴人奥村が昭和四九年、本件四建物に修繕を加えたことおよびその内容は前記認定のとおりであり、<証拠>によると、控訴人は昭和四九年六月一四日付、同日着書面で右修繕の中止を要求し、同月一四日付、同月一九日着書面で契約解除の意思表示をなしたことが認められるが、前記(本理由一、(二)、1)で認定の全事情を考慮すると、昭和四九年の修繕によつて賃貸借当事者間の信頼関係が破壊されたとみるのは困難であり、従つて請求原因2の(5)の控訴人の主張は失当であり、採用することができない。

6 請求原因2の(6)のうち、もともと本件土地賃貸借が控訴人主張のように昭和一三年一二月一九日に成立したことを認めるに足りる証拠がないこと前記(本理由一、(一))のとおりであり、また右賃貸借契約において存続期間二〇年の約定がなされたことを認めるに足りる証拠もないから、他の点について検討するまでもなく、請求原因2の(6)の期間満了の主張は失当であり、採用することができない。

(三)  控訴人は被控訴人奥村に対し、その占有土地の面積に応じ昭和四五年一一月一日以降3.3平方米当り一か月三〇円ないし六〇円の割合による金員の支払を求めているが、弁論の全趣旨によると控訴人は飽くまで同被控訴人に土地賃借権あることを否定し、従つて賃貸借存続を前提として賃料を受取ることを潔しとせず、不法占有による賃料相当の損害金としてのみ金員の支払を求めたき意思であることが窺われる。ところで、既に認定のとおり控訴人主張の賃貸借の終了事由はすべて否定され、被控訴人奥村の土地占有権原が認められるのであるから控訴人は同被控訴人に対し損害金の支払を求めることは理由がない。

(四)  <証拠>によると、土浦市における都市計画下水道事業につき同市は都市計画法七五条に基づき、3.3平方米当り五〇〇円の割合による受益者負担金を徴収しており、控訴人は本件土地を含む別紙物件目録記載の六一〇番地三の土地全体につき、昭和四六ないし四八年度にかけて、合計二〇万円余の負担金を土浦市に支払つていることが認められ、また本件土地の賃借人である被控訴人奥村も土地所有者である控訴人とともに、右下水道工事により利益を受ける者に該当することも否定し難いが、そうであるからといつて、直ちに、被控訴人奥村が右認定のように負担金を支払ずみの控訴人に対し本件土地につき3.3平方米当り五〇〇円の割合による負担金に相当する金員全額を支払わねばならぬとは解し難い。

二被控訴人矢萩に対する請求の当否

(一)  請求原因6および同被控訴人の抗弁1は当事者間に争いない。

(二)  同被控訴人は本件一建物の賃借人として被控訴人奥村の本件土地賃借権を援用し、控訴人は右賃借権の消滅を主張するが、控訴人の各賃貸借終了事由がいずれも採用できないこと前記のとおりであるから、被控訴人矢萩に対する控訴人の再抗弁はすべて失当ということになる。

三結論

そうすると控訴人の被控訴人両名に対する本訴請求はいずれも失当ということになるから、これを棄却した原判決は正当である。

よつて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条本文、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(吉岡進 吉江清景 上杉晴一郎)

物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例